劉勇先生のハリドックセミナー

ハリドックの基本(3) 「医食動楽同源で治す」(2012.7)

音楽と共通する治療の効果

患者にとって、楽しいことや嬉しいことは何でしょう? それはまず何より痛いところが痛くなくなること、今までのつらい症状が軽減することに他なりません。心身ともに不調で、体のあちこちが痛くて治らない症状が続けば、極端な話、これ以上生きているよりも死んだほうがましだと思うようになる。そのような心理状態に追い込まれることは珍しくありません。

症状が少し良くなるだけで、患者がどれだけの大きな喜びを得るかということを治療家は知らなくてはいけません。

治療で患者を楽にすることは、音楽に共通する要素があります。ツボを一つひとつの音符に例えれば、ツボの組み合わせが和音となり、しっかりとその和音を組み合わせていくことにより、患者の五臓六腑が壮大に鳴り響く音楽のような効果が出てくるのです。

こうなると治療家の鍼は、指揮者の指揮棒であり、患者の身体はオーケストラとなって、治療家と患者が響き合う関係のなかで治療が進み、音楽の世界から感じ取るような喜びをそこから得られるといっても過言ではありません。まさに治療そのものが、音楽のように患者の身体を楽しませることができるのです。

世界的指揮者の小澤征爾さんも私の患者さんの一人なのですが、小澤さんを治療することにより、彼の指揮するオーケストラや、その音楽を聴いている大聴衆ともつながっているという感覚を持つことがあります。

治療家と患者がその背後にいる関係者も含めて響き合うというコミュニケーションを達成する時、それは音楽的な広がりをもった効果となり、治療家も患者も治療をエンジョイするということを実感できるでしょう。


エンジョイできる治療院

理想的な状態で治療が進んでいる場合は、ツボの一つひとつで治療家と患者の間に心地良い音響が生まれてくるような交流が成立して、治療効果も相乗的に上昇していきます。

逆の場合では、診断や取穴が上手くいかずに、ツボの和音を乱し、五臓六腑の音響バランスも崩れ、体内の機能は低下して、身体全体の働きが鈍くなってしまう。

そのため、治療家には正確な診断力が欠かせませんし、気血の流れを整える鍼灸治療の技術も必要です。そうした最低限の臨床技術がなければ患者を楽にすることができません。演奏のできない音楽家のようなものです。 結局、治療をエンジョイするということは、患者に陰陽バランスの乱れを自覚してもらって、治療家と患者がある種の一体感を感じながら、身体の磁場のようなものを整えていくということです。その結果として健全な生命のエネルギーが生み出されていく。 治療家と患者が同じレールに乗って進んでいるような状態を想像してみてください。治療家が右にカーブすれば、患者も一緒に右へ行くといったように、陰陽バランスを調整しながら、患者の身体にとって望ましい方向へともに進んでいくのです。その結果体調が回復すれば、患者も東洋医学の考え方に興味を持つようになります。

これは古代中国から続く易学にも共通するのですが、進むべき方向や、向かってはいけない方角などを決めていくことでバランスを整えることは、東洋医学の本質と言えるでしょう。東洋医学の世界を理解してもらうこと自体が、患者に治療をエンジョイしてもらうことにもなるわけです。

人間の身体は小宇宙であるということを分かりやすく伝える。身体の震えは大地の地震であり、脳溢血などはマグマの噴出に例えることができます。胆石はまさにダイヤモンドです、磨けば美しい(笑)。患者が宇宙的な発想で自分を見つめ直すことは、元気になるきっかけになります。


楽でつなげる医・食・動

中国の歴代皇帝は、食事の際に音楽や舞踏を鑑賞することを常としました。食事はまさに医食同源で、医の中核となる行為ですが、その時に演奏や踊りを楽しんだ。そのように食事を楽しむこと(食楽)は、医を楽しむ(医楽)ということも意味したのです。愉快に食事をすることが医をエンジョイすることだったわけです。

現代医学的にいえば、そのような食事方法が消化を良くして、身体の免疫力を高め、まさに未病対策を実現していくことになる。好みの音楽を聴くと五臓六腑が踊り、生きるエネルギーが湧いてくるのです。ですから、現在のディナーショーなどもとても心身に良いことだと思います。  食に関連してよくある質問に、「何を食べると安全で、何を食べると害がありますか」というものがありますが、現代の最先端の科学でも食の安全性については正確に分からないことが多いのです。その人の体質により、どのくらいの量をどのくらいの頻度で食するかによっても影響は違うでしょう。その点では、何千年にも渡り使用されてきた漢方や鍼灸の蓄積はまさに歴史的なエビデンスを持っていると考えることができます。

また食事とともに忘れてはいけないのが運動です。食べているだけではやはり余分なものが蓄積し、身体のバランスは悪くなってくる。スポーツや筋力トレーニングで筋肉を鍛えておくと成長ホルモンが分泌され、脳などにも良い刺激が届き、認知症などを含めた老化に対する防止効果も高まります。スポーツを楽しむこと(動楽)も医を楽しむこと(医楽)につながっていくのです。 このように音楽を聴きながら食事をすることや、好きな運動をすることが、医を楽しむことそのものであり、それを私は医食動楽同源と呼んでいます。

医も食も動も「楽」でつながっている。それでこそ真の意味での健康な生活を実現できると考える。それはまた楽しい養生といってもよいでしょう。患者が深刻な顔で治療院に通うことだけが医療ではありません。治療家には治療を通してこのような健康の本質を伝える能力が求められるのです。

患者のちょっとした訴えからどれだけ正確に病症を見つけ出し、治療はもちろんのこと、生活改善のためのアドバイスをすることができるか。治療家にはとても多くの技量や高い質が求められるのですが、東洋医学の本質の一つに「楽」があることを知っていれば、治療の幅を広げるポイントも見えてくるでしょう。

患者の苦痛を「楽」にする治療技術を持ち、患者が「楽しく」実践できる養生法をアドバイスできること、それができれば治療も「楽しく」なり、治療院の経営も「楽」になる。「楽」が「薬」になるのが東洋医学なのです。そうした「楽」を追求していくことで、患者が「楽しく」健康になる理想的な治療院を作り出していくことができるのです。


本企画は、2012年に『鍼灸ジャーナル』(緑書房)で全5回連載されました。



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